千苅堰堤水路隧道


兵庫県


後半戦

  

 
 越流トンネル(余水吐隧道)攻略の前に、ちょっと堰堤本体の観察もしておきます。
 全17門総吐出はなかなか壮大な眺めです。
 千苅堰堤では、堤体左手から階段で上に行く
ことができます。

 盛大なウォータースライダーです。
 それが総切石のスライダーですからなんとも贅沢です。
 この眺めは例えダムに興味のない人でも惹き付けられる迫力があります。

 階段を上に。視点を変えればさらに壮大さが伝わります。
 で、よおおく堤体の石積みを見ると、ある所から石積みの色が違うことにお気づきでしょうか。
 これは第二回拡張工事(1926年(昭和元年)〜1932年(昭和7年))内の増強工事で、堰堤本体の嵩上げが実施
されました。嵩上げは6.06mにも及び、貯水量は2倍に増えたそうです。
 恐らくあの境目が嵩上げラインと思われます。

 一門一門しっかり石積みポータルを有しています。欠円アーチの石積みで、楯状迫石を使用しています。
 ただ、内部はコンクリートのようです。2代目の水門、ということでしょうか。
 そんな眺めに魅了されつつも、アーチチェックは
怠りません。
 階段脇にあるアーチ?コンクリでした。
 足元にもアーチが。
 しかし残念ながらいずれもコンクリートでした。
 堰堤の天端部分まで登ってきました。
 巨大な石碑が立っています。
 上段には

 人 助 天 (右から読む?)
 

 大正七年
 天長佳節
 
 新平?題


 あと、印が2つ押されています。
 中段に英字

 下段に
 神戸市第二回水道拡張工事中
 とあります。
 天端部は封鎖されており、関係者以外は入れ
ません。
 左側に設備が並んでいるので仕方ないですか
ねえ。
 貯水池沿いに歩けたようですが、2013年9月
現在、土砂崩れのため通行止めになっています。

 天端から真下は望めませんでしたので、斜めから。
 ここからでも眺めは壮大です。
 さて、降りて土木遺産の千苅橋に行きましょう。

 千苅橋 土木学会選近代土木遺産Cランクの開腹アーチ橋です。
 人道橋ということもあって随分細い開腹アーチ
です。


 千苅橋 せんがりはし 大正8年5月架橋 二級河川 羽束川
 欄干は改修されてますな。
 橋梁の両端に切石が見えますが、これが往時の
施工でしょう。

 千苅堰堤とワンセットで写真に収めると一層引き立ちますな。
 さて、続いて途中で見つけた2連アーチを見に行きましょう。
 その2連アーチは千苅橋を渡って下流に進む
人道にありました。
 むむむ。。。雲行きが怪しい。。。
 うぬぬぬ。。。無念!
 コンクリートアーチでした。
 2連橋梁両側側壁のみ切石積みになってます。
 この切石も新しい感じがしますんで、後年全面
改修されたのではないでしょうか。
 以前はどんな姿だったんでしょうか。
 非常に気になりますねえ。
 一応反対側からも撮影。
 多連橋梁特有の水切りの施工すらありません。
 その影響か、コンクリが剥離しています。
 水路は2連暗渠から一気に山を駆け上ります。
 まさに石積みウォータースライダーになってます。
 ハイキング道もここから川沿いに山を登ります。
 大岩山に行けるらしいです。

 さて。。。チェックポイントはあらかた片付けまし
た。
 残るは。。。そう!大物の余水吐隧道!
 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 気が付けばこんな所に。
 大雨の後はここから大量の水が滝となって流れ落ちます。
 。。。そして。。。

 間近で見るとド迫力!相当大きな隧道です。
 奈良県下北山村にあるあの摺子発電所導水隧道と肩を並べるでかさ!
 しかもこいつは総切石造りです。

 重厚な総切石隧道。アーチ環となる迫石も一つ一つがでかい!要石らしきものがないのが残念ですが。

 帯石、笠石も備え、その間の胸壁の両側に壁柱(パラペット)の装飾が成されています。

 圧倒的! 問答無用の完全総切石造りの洞内!
 床面に至るまで完全なる切石造りです。
 因みにこれは摺子発電所の導水隧道です。
 高さは同程度ですが、横幅は1.5倍ぐらいはあり
そうです。

 広い!片側1車線の一般道隧道でも通用しそうな広さです。ちょっと断面が下まで丸すぎですが。
 放水中の洞内は凄まじい光景になっていそうですが、見る術はありませんな。。。

 超美麗!全体的に丸い洞内ですが、側壁の役割をしている所の切石は一回り大きいものを使用しています。
 その段数は8段!アーチ部分の切石は積みも積んだり46段!これが一体何列続いてるんだ、という話です。
 床面はちゃんと数えてませんが18個ぐらいです。全部併せてざっくり一巻き72個の切石を使用しています。
 これが100列なら7200個。1000列あったら7万2千個。。。しかもこれは表面だけの数です。何層巻きか分かりませんが、
例えば3層巻きで1000列なら3倍の21万6千個。。。両側ポータルの石積みもありますから。。。気が遠くなる数です。
 側壁とアーチと床面の切石の大きさが違うんで正しく列で数えられないですけどね〜

 奥へ進むと流麗なラインを描きながら右上に駆け上がります。
 その先は呑口に。。。

 振り返り。どうでしょう、200mぐらいの延長はありそうですね。
 駆け上がりの端緒にある切り込み。
 これは一体何なのか。。。
 フラッシュしてみると。。。
 なんと、小さなアーチが見えます。コンクリート製
ですね。。。
 内部の様子です。
 アーチはコンクリートなものの、側壁は切石で
す。しかも外の隧道とは異なる乱切り石積みです。
 同時期に開削したのか、後年掘削したのか。。。
 どこへ繋がるかはあまりに小さい穴なんで追い
ようがありません。

 こちらが本坑。口のでかさがハンパないです。

 振り返り。
 ものすごい流線形&駆け上がりです。真っ直ぐ下りにもできたと思うんですが、あえてこんな流線形にした理由は何で
しょうねえ。
 どうですこの流線形。
 非常に精緻なラインを有しています。
 それとは別に、各箇所の切石パターンです。
 迫石の切石が一際でかいのがわかります。
 しかも、側壁、アーチの切石の2倍を原則として
いるようで、アーチより大きい側壁に対応した迫石
が最大のでかさを誇っているようです。

 でかさ順に。
 側壁対応迫石>アーチ対応迫石>床面≠側壁
>アーチ
 という順番ぽいです。
 片側の側壁にこんな取っ手?が。
 流水中でもこの取っ手で上り下りできるように
設置したのでしょうか。

 よく見たら呑口は拡幅されている?可能性があります。
 この継ぎ接ぎをどう判断したらいいんでしょうねえ。

 外に出ました。
 右側は急峻な山肌が迫り、底には瓦礫が満載。左側は巨大な切石の壁。攀じ登ることは叶いません。
 恐らくこの巨大な切石壁の向こうは、なみなみと水を湛える千苅貯水池です。
 大雨で増水し、堰堤放水で賄えない水量をここで放出している模様です。機械的な放水設備は感じられず、普通に
オーバーフローした分が自然に流れるシステムに感じます。

 ネット初公開?の呑口側の坑門です。
 基本吐口と全く変わらないフォルムをしています。

 見事な面構え!その巨大な呑口は人知れず開口しておりました。
 ここまで大きく開口させる必要があったのか疑問ですが、それほどまでにこの第三の神戸市飲用水堰堤に力を
注いでいたのでしょう(先の一、二は布引貯水池と烏原貯水池)。

 上部のフェンスの向こうは関係者しか入れない場所なのでしょう。取りあえず上に上がる術は見当たりません。
 この自己最大級の巨大石積み隧道を拝めただけでも満足です。