笹部トンネル



 


                  2023年1月訪問

 能勢電鉄妙見線。兵庫県川西市の川西能勢口駅を
起点に、大阪府豊能郡豊能町の妙見口駅を終点とする
路線です。
 南側の宅地開発に伴い、妙見山への参拝客に加え、
通勤・通学客が増大し、輸送力を高める為に現在のよ
うな線形となりました。
 改良前の路線は廃線跡として割と残っており、改良前
唯一の隧道も残されておりました。
 
 その名も「笹部トンネル」

 近所であり、以前から知りつつもなかなか足が向かな
かったのはその立地にあります。
 とにかく責めるなら北側!それは前々から思っており
ましたが、今回漸く探索するに至りました。
 ここは妙見線最初の駅である笹部駅。山下駅で日生
線と別れてから400m程しか離れておりません。しかも
北に向かっていた路線が山下駅を出てすぐに東に進路
を変える為、この駅は山下駅の利用客と利用圏がかな
り被っております。しかも住宅地の大半は南側。この駅
の入り口は北側となっており、南側の住宅の殆どの人
たちは山下駅を利用するのではないでしょうか。
 そう、この駅は北側に昔からある笹部地区の住民の
為の駅、と言っても過言ではないと思います。
 北側にしか入り口がない駅ではありますが、一応南側
の住民の為に、歩道橋が設置してあり、行き来はでき
ます。
 ちょうどコインパーキングが南側にあるのでそこに駐
車。歩道橋を渡って北側にやってまいりました。
 上の地理院の地図でも分かる通り、住宅地と現行路
線のある南側からのアプローチは不可能と判断しまし
た。北側には初谷川に沿って点線道があります。これ
を辿って何とか隧道にアプローチできないか、という目
論見です。

 最初は点線道ではなく、初谷川に沿って道なりを歩い
て行きます。
 この場所は寄り道。途中で水の流れる堰堤を渡った
先。何しに来たかというと…
 ハイ、暗渠チェックでございます。
 この区間は1923年(大正12年)開業ということで微妙
な所ではありますが、一応…。笹部トンネルは煉瓦だし
ね…
 しかし残念ながら反対側までBOXでございました。
 堰堤前まで戻って再び川沿いを歩きます。
 結論から、このルートで行けました。
 北側の点線道は帰りに使いました。どちらも道がきち
んとあり、山道を歩きなれている方なら楽勝です。
 ただ、最後の川と別れてトンネルに向かう道はないの
で、注意が必要です。
 
 ここがその最後のポイント。
 写真は振り返って撮影しています。笹部駅は写真奥
で、向こうから歩いてきました。
 右の川が初谷川です。
 ここはわざわざ降りる必要はありません。
 左手の斜面を左奥に上がっていきます。
 現行路線がこの上を走っています。
 私は一応暗渠チェック。しかしハズレ…
 斜面を上がりきると視界が開けます。
 それとともに見える現行路線の笹部第一トンネル。
 手前には獣害ネットみたいなのが張り巡らせてありま
す。
 列車が通過していきます。
 ネットはしっかりと線路を守るように張り巡らせてある
為、逆にこちらの安心要素にもなっています。

 では、肝心の笹部トンネルはどちら側にあるのか…
 さあ!10数年待ち焦がれたそのお姿を拝見!

 こちら側の住人として存在してくれた笹部トンネル!ネットの外側でした!うれしー
 やっと…やっと出会うことができました!感動です…

 この区間の開業が大正12年ということで、煉瓦の時代からコンクリの時代に移り終わるぐらいの年代です。
 そこにきてのシンプルながらもこの馬蹄型の煉瓦アーチ。やはり素晴らしい!
 馬蹄型のアーチ環の下部はイギリス積み、上部が5層
巻きとなっています。
 150mというペイントは、このトンネルの延長を示して
いると思われます。
 そして!最も特徴的なのがこの坑門の煉瓦!
 殆どの坑門がイギリス積みと言っても過言ではありま
せんが、その常識を覆す、まさかのフランス積みです。
 関西圏では関西本線の旧芝山トンネルぐらいでしょう
か。とにかく例が少ないです。
 ご存知の通り、フランス積みは、煉瓦の長手面と小口
面を並行に交互に積んでいく組積法であり、イギリス積
みと比較して強度的に劣るといわれています。
 また、交互に長手と小口を積みかえる施工効率の悪
さもあり、適用例は限定的です。
 それでも一部で採用されている理由の一つに、装飾
の意味合いがあるようです。
 馬蹄型アーチの内側です。
 カーソルオンで煉瓦の配列を示している通り、こちら
は基本的にはイギリス積みとなっています。
 ただ、小口配列は一律ですが、長手は両側が七五で
あったり、小口が挟まっていたりと特殊な配列となって
います。
 しかも洞内側の煉瓦が3段ごとに小口1個分ずらせて
あります。いやあ、なんなんでしょうねえ。
 ぐるりと一周同じ配列です。
 
 内側はコンクリですが、これは巻き立て補修をしたの
か、元々コンクリで施工したのかが分かりません。
 雰囲気的には巻き立て補修ですが、煉瓦との接地箇
所に段差があるので、煉瓦を抜いて巻き立てたのか、
元々コンクリで施工したのかがわかりませんねえ。

 シンプルな坑門ですが、フランス積みを採用するなどさりげない拘りを魅せる笹部トンネル。
 時期的にはコンクリの技術も普及し始めているはずですので、開業当時の唯一のトンネルということの気合の現れでしょうか。
 笹部駅側(西側)坑門。
 やはり内部はずっとコンクリです。

 振り返り。
 現役線にすぐ合流する線形になってます。
 内部からの振り返り。
 良い廃景です。
 レールではないようですが、鋼材による支保工が設置
されています。

 そして…むむ…天井に割れ目が…
 はい!煉瓦アーチ確定!
 薄くコンクリ巻き立てをしていたようです。

 ※カーソルオンで拡大。
 しつこく振り返り。
 何度振り返ってもええっすなあ。
 そして!待望の煉瓦アーチが姿を現します。
 大正12年頃という遅咲きの煉瓦アーチトンネル。しか
もフランス積み坑門! 
 やや荒さが目に付く長手積みのアーチ。
 それでも欠損は見られません。

 側壁はどうだったんでしょう。これも巻き立て補修で
しょうか。
 退避坑が出てきました。
 しっかりコンクリ製ですねえ。
 バラストは残されたままになっています。
 2か所目の退避坑…
 なんか煉瓦が透けて見えるような…
 側壁も巻き立て補修の可能性が出てきました。
 水抜きか点検用かの穴が開いてます。
 …それにしても煉瓦がだいぶヨレヨレです。
 コンクリの隙間補充もちとぞんざいな気がします。
 これは…勾配標が張り付いていたのでしょうか。
 笹部駅からの視点では、ここまでは登り、ここからは
水平ということでしょうか。
 いつしかまた天井までコンクリ巻き立てに。
 笹部第一トンネルができるまでは補修は頻繁に行わ
れていたようです。
 そして光風台駅側(東側)に到着。
 ここも現役線はすぐそこです。
 振り返り。
 150mのそこまで長くはないトンネルですが、久しぶり
に新規の探索だったので楽しめました。

 笹部トンネル、東側坑口。こちらも西側と全く同じで、坑門の煉瓦はフランス積みです。
 こちらも5層巻きのアーチ環。
 綻びは一切見受けられないですねえ。
 フランス積みの坑門。
 よく見ないと分からない積み方なんですが、なぜあえ
てこの積み方にしたんでしょうか。
 意匠を凝らすなら要石を入れるとか、笠石に雁木を
入れるとかの方が目立つんですがねえ。
 なるべく低コストで何とか拘りを作りたかったのかも
知れません。

 こちらも現役線とはネットで完全分離されていました。
 引き絵は植生の関係で撮れず仕舞いです。
 しかしながら、長年の宿題をこなせたので非常に満足です。
 ついでに光風台駅まで線路沿いを辿ってみることに。
 するとこんな構造物が!

 これを見つけた時はガッツポーズでした。
 こりゃあ内部煉瓦造りやろ!!!
 しかも線路に対して斜めです。
 いらん期待が膨らみます。
 しかし無情にも奥まで完全にコンクリ製。
 大正物件とは思えないコンクリなので、改修されてい
ると思われます。
 隅々まで舐めまわしましたが、かつての構造物の欠
片も見当たりませんでした。
 南側坑口から恨めしく空を見上げます。
 失意の中、登るという選択肢はありません。

 以後、光風台駅までの旧線敷きも探索しましたが、
暗渠の発見には至りませんでした。
 おまけ。
 帰りは初谷川に沿う北側の小さな導水路の管理道
(地理院地図での点線道)を歩きました。
 何気なく初谷川の対岸に目をやると、何やら気になる
ブツが…
 !!!
 あれは水路隧道!やないか!
 すぐさま対岸に。
 ちーさなちーさな水路隧道がこんな所に眠っておりま
した。
 あきらかに廃感があり、現在は使っていない様子。

 そういえば、北側の導水路がここの改良版なんでしょ
うか。

 因みにこちらは吐口(下流)側です。
 吐口から。
 おおっ。縦長に綺麗に整形してあります。
 想像以上に状態が良いですね!勿体ないな…

 しかし狭い…こりゃあさすがに入れません。
 呑口(上流)側に回ってきました。
 こちらもちゃんと開口しています。
 内部です。こちらも安定しています。
 うーむ、いつでも水流せそうです。
 上流側に目をやると、もう一個見えてきました。
 小さな水路にえらい手間暇掛かけていますね。
 吐口(下流)側。
 折れ込んでいるので内部が見えません。
 内部は変わらず丁寧に掘られています。
 床面が最近まで流れていたような雰囲気ですね。
 排砂用の切り込みがありました。
 使われなくなってからは本線を土嚢で封鎖して、ここ
から水も排出していた模様です。
 またまた回り込んでみると…
 おおお…どうやら取水口はここみたいですね。
 左側の網がされている所が取水口ですね。
 しかしいきなり隧道化する所を取水口にするとは…
 堰堤を造りやすい地形を優先した感じですかね。
 自然の岩場とコンクリートをうまく利用して取水口まで
水を誘引しています。
 目詰まりしているのか、水はあるのに流れていません
ね。
 どうも奥で目詰まりしている模様です。
 洞内が崩れているという訳ではなさそうです。
   おまけなのにえらく遊んでしまいました。
 
 半日の探索でしたが、非常に有意義でした。