大山の人車軌道隧道


富山県


 


                       2012年8月訪問

 2012年8月、恒例のお盆帰省後の探索時期がやって参りました。
 いつもは単独で探索するのですが。。。
 今回は!以前からメールのやりとりや、相互リンクもしている「険酷隧さん」との合同オフが実現しました!
 対面は初!ピカさんもお誘いしていざ、富山オフへ!

 ピカさんと私はこれまた恒例の前泊居酒屋で、道の駅細入に乗り込み!
 お忙しい中富山県の名士、「honさん」もお越し頂き、3人での愉しい呑み(honさんは次の日仕事でお酒飲めず。。。
なのにわざわざすみません(大感謝))となりました。
 特に黒部最深部への具体的な探索計画に花が咲きました。近々。。。?

 さて、翌日!honさんはすでに未明に帰宅しており、駐車場にはハリアーさんとアテンザくんの2台ですが、目覚める
と、隣にワゴンRさんが。。。そう!そのお車の主が「険酷隧さん」でした!
 出会いの詳細は「険酷隧さん」のブログで紹介されてますんで、そちらでもどうぞ!

 当日はいろいろな場所を探索したんですが、やはりここはレポートしたい!
 そう、
大山の人車軌道隧道

 え?ナニソレ?私も最近まで知りませんでした。
 勉強不足で、人車軌道というのがまず分かりません。。。
 人車軌道とは、人力で貨車や客車を押す鉄道だそうです。ええ!?人力!???
 建設コストが安く、維持もしやすいことから意外と全国で散見されたようです。
 ここを探索された「険酷隧さん」よりも先に調査された方がいらっしゃいます。「大山の人車軌道」で
検索すると、この方のブログにヒットしますんで、深い歴史は是非そちらでご覧ください!

 当サイトは。。。「現在そこにある穴を見届け、皆様にご覧いただく!」をモットーにしており、時代考証は非常に
苦手とする分野でございます。。。悪しからずご了承下さい。。。
 さあ、やって参りました!
 ワゴンRさん先頭で地元道をぐるぐる。。。
 どこ走ったか全然覚えてない〜
 到着したのは安蔵林道。ここからのアプローチ
が最もし易いそうで。
 私は県道43号側から行くものだとばっかり
思っておりました。(←そっちからでも行けるみた
です)
 ここは停め易いですからね!
 アプローチポイントはこちら。
 え?わからんって?写真じゃあそりゃあわかり
ませんな。。。
 実はこの林道の両側、どちらからもアプローチ
できるそうです。
 要するに、人車軌道はこの下を潜っているわけ
で。。。
 
 向かって右側、こちらは道がなく斜面を滑って
降りるような感じになるためオススメできない
そうです。。。
 向かって左側。
 こちらは植生に覆われていますが、一応道が
付いています。
 こちらからのアプローチがオススメのようです。
 険酷隧さんの先導で下っていきます。
 よろしくお願いします!
 スロープ状となった道はこのコンクリートの道に
すぐ出ます。
 これは現役水路トンネルの開渠部分のようで、
上を歩けるようにコンクリート化しているようです。
 そこからこんないい階段が付いています。
 ここを下るわけです。

 あ、険酷隧さんが装着しているのは、腰まで
水没しても大丈夫なロング長靴、ウェーダーで
ございます。
 もちろん私とピカさんも装着。ウェーダー3兄弟
です(←意味不明w)
 ここまで降りてきました。
 反対側だとこれだけの階段分の斜面を下らない
となりません。
 ありがとう!階段!
 そして。。。軌道跡があるのがここより左手の
杉林の中。。。だそうですが。。。
 ホンマかいな!?と関西弁で密かに突っ込みを
入れました。。。
 だって、藪まみれですよ。。。
 この階段と並行して軌道があったそうです。
 半信半疑のまま真夏の藪に突入!
 この季節の藪は北陸と言えどMAXにきつい!
 てのは分かってるんですが、この時期にお願い
したんだからどうしようもない。。。
 虻(この地方ではオロロというそうです)の飛来
も関西に比べて格段に多く、厄介なものの1つで
す。そして最も危険なのが熊で、関西ではその辺
非常に疎かったのですが、険酷隧さんが熊鈴を
持って来られたのを見て、こいつはマジでやば
い。。。と思いました。
 少し中に入ると。。。おお!切り通し!?
 隧道方面とは反対になりますが、うっすらと切り
通しの跡が残ります。
 切り通しを背にさらに藪まみれに突進!
 下も多少の泥濘があり、とても普通の靴じゃあ
無理です。
 心なしか掘割り状になっており、階段最下段よ
りも軌道跡は下がっております。
 がさごそがさごそ。。。ひいいい。険酷隧さんよ
どこへ逝く。。。
 といいつつ、核心部分がぼんやりと見えてきた
ような。。。

 出た!!!!!
 ついに現れました!険酷隧さんに教えて頂くまで全く知らなかった未知の隧道!

 大山の人車軌道という方が通りが良いみたいですが、
岡田のトンネル、岡田隧道とも呼ばれているようです。
 険酷隧さんがUPされた過去記事のデータによると、軌道着工が1899年(明治32年)で、その後1年以内が隧道竣工年度
ではないかと。延長は50m程のようです。また険酷隧さん実測で、幅約213cm、高さ約230cm程のようです。
 こちらが岡田側の坑口となっております。
 これをどう表現したら良いのか。。。
 整形された切石のアーチ環、迫石と、坑門に
使われる乱積み、未整形のゴロ石とのコラボレー
ション。。。
 こいつはなかなかない!
 坑門に使われる素材によって、その隧道の
”門”は保たれるといっても過言ではないはず。
 従って使われる素材は「成形された切石による
切り込み接ぎ」或いは「煉瓦によるイギリス積み
ないしはフランス積み」。コンクリート以前の施工
であればおおまかにこの2つでしょう。
 乱積み坑門&切石迫石の組み合わせははっき
り言って見たことありません。
 明治期のしかもその地域が主体となって施工
していったことが独特の造りを生み出しているの
かもしれません。
 しかし。。。内部を覗くと。。。

 !!!!!!!!!!!


 こ、これは。。。切石アーチ!?
 。。。って、まあ事前情報で知っていたわけで
すが、実際に見ると。。。すごい。。。

 で、そして何より、この水没をまずクリアする
必要があります。
 その水深は長靴以上。。。そのために今回は
トリプルウェーダーで臨むのだ!!!
 先ずは険酷隧さんが突っ込みます。
 だ、大丈夫っすか!?

 (上載写真と坑門の植生具合が異なりますが、
上載写真は刈り払い後の写真を転用しておりま
す)

 どうだ、この石アーチ!!!
 こいつはすごい!!!アーチ全面切り石積みです!橋梁では散見される切石アーチですが、隧道となると一気に
少数派に!どうだったか。。。私が知る隧道切石アーチは。。。北陸本線、北陸トンネル旧線(現福井県道及び一般道)にて、
暗渠アーチ2本が切石だったのは記憶していますが。。。あとどっかあったっけな?ってぐらいレアです。
 大体この時代で言うと、内部アーチは「煉瓦」ですよ、「煉瓦」!
 そういえば、富山県では煉瓦のアーチというのは鉄道暗渠含め殆ど確認できません。石川に行けばちょっとはあるんで
すがね。。。
 煉瓦文化というのが少なかった土地柄ということでしょうか。
 しかも恐ろしいことに。。。
 側壁は未成形の乱積み空積みです。。。
 乱積みでもコンクリートを流し込む練積みという
のはありますが、空積みの側壁とは。。。
 驚愕です。
 しかもこれが損傷個所が全くと言ってない!
 これがさらに驚愕!
 振り返り。
 坑口は4分の3くらい塞がりかけています。
 内部は入ってすぐ泥濘に支配され、水位が上
昇。膝丈くらいになります。
 ウェーダー大活躍ですなあ。

 未成形乱積み側壁に切石アーチ。。。しかも
これが明治以降揺るぎなくパーフェクトの美観を
保っています。。。
 ブラボー!!!


 ただ所々、切石アーチの隙間にセメント補強
をした跡が散見されます。
 これは、人車軌道廃止後、地域の方々が少し
の間生活道として利用していた、という話もあり
ますんで、その頃補修をした跡ではないかと思わ
れます。
 振り返り。
 だいぶ進みましたな。。。
 泥濘は坑口に比べるとだいぶ収まってきまし
た。入りたては水分以上に泥濘感が強く、底なし
沼の恐怖を味わいましたが、ここまでくると、よう
やく路面の固い部分に足の底が付くようになって
きました。
 何度見上げても飽きない廃景。。。
 坑門の不安な部分とは全く違い、いつでも現役
を始められそうな風貌を保っています。
 。。。しかし。。。
 進めば進むほど微妙に水深が上がっていきま
す。。。
 路面には足が付いているんで、ひょっとしたら
向こう側にやや傾斜しているのかもしれません。

 さあ!反対側が近づいて参りました!
 それにつれて増す水深と泥濘感。。。3者3様で声にならない悲鳴を上げて進みます。。。
 水深は既に腰を越えて、ウェーダー危険水位も迫っています。ここまで来ると締め付け感よりも浮力感に足元が
覚束なくなります。しかも泥濘が増えてきています。。。側壁、アーチを片手で触れていないとこけてしまいそうです。。。
 さあ、脱出間近!
 ってとこで一気に泥濘感が減り、代わりに路面
への接着感がなくなります。
 締まっているのかいないのか分からない水中
の土砂を一気に登りはじめ。。。
 水のない土砂の陸地へ!
 その時点で、もう完全に屈んでいないと頭をぶ
つけます。
 そのくらいの土砂流入度合です。
 しかし早かった。。。水没MAX地点から陸上ま
での距離がえらく短い。。。それだけ急こう配で
土砂をかけあがる格好になります。
 こちら側の坑口からアプローチしていたら、この
水没区間に足を踏み入れられなかったかもしれ
ません。
 反対側に無事脱出!
 完抜けに見事成功しました!ウェーダー様様
ですな!
 2012ウェーダー導入で、一気に探索の幅が
広がりました。一体どこへ進むんだおまいら
は。。。と自分に突っ込み。。。

 脱出後の軌道跡は。。。駄目だ。。。完膚なき
までの激藪です。。。
 この先に隧道があるってんなら行きますが。。。
 ねえ。

 さあ、反対側の坑門です!(刈り払い実施済み)
 うむむ!?迫石はありますが、坑門、がない!?のか!?もともとない?
 迫石が奇妙にアーチを描き、その上には何もない。。。1段奥からは自然の法面です。
 一体どういうこっちゃ!?
 ねえ、迫石の上部には何もありません。
 こんなことって普通はあり得ます!?
 しかもこれが崩壊することなく、迫石のみで
自立するなんて。。。増々ありえん!
 中央部の切石。
 これが要石となっているのでしょうか。
 ここを抜いた瞬間、まさに要を失ったアーチは
一気に崩壊してしまいます。
 この要石を、両側の迫石が絶妙のバランスで
挟んでいるお蔭でアーチとなり得ているので
あります。
 うーむ、ファンタスティック。。。

 靄に霞む大山人車軌道隧道。。。対岸の光。。。そして水面に反り返る光がまた幻想的です。
 さらに、切石アーチ一個一個がさまざまな色合いを出し整然とアーチを成している所がまた感動的です。
 この上は安蔵林道です。
 それ程高くない鞍部を残し、この軌道唯一の
隧道として、軌道廃止、はたまた生活道として
の役目を終え、こうして好き者のみの嗜好の存在
で終わらすにはあまりにも勿体ない逸品です。
 これは富山県の文化遺産として大いに価値の
あるものと考えます。
 是非後世に遺して頂きたいです。